2018/01/24
子どもや若者を対象とした社会教育活動に取り組んでいるNPO法人夢職人では、多種多様なバックグラウンドを持った大学生や社会人がボランティアスタッフとして多数在籍し、子ども達の多彩な体験活動を支えています。
スタッフは、先生や親とは異なる立場から子ども達と関わり、親しいお兄さん・お姉さんのような存在です。「another story-もう一つの社会との関わり方」では、そんなスタッフたちが活動をはじめた経緯や活動で感じたことなど、普段はあまり語ることなかった物語をお伝えします。
今回は、菅野泰貴さん(ひーくん)をインタビューしました。
―普段は、どのようなお仕事をしていますか?
鉄道会社で電車のメンテナンスをやっています。内容は、車でいうところの車検のような感じです。電車が安全に運行できるように、車体をバラバラにして一つひとつ点検しています。
―生活にとても身近な、鉄道に関する仕事なのですね。今の仕事は、昔からやりたかったことなんですか?
そうですね。中学生の頃には鉄道関係の仕事に就きたいなと思っていました。物心ついた時から電車を追いかけているような子で、「あの電車に乗りたい」と親によくせがんでいました(笑)
―追いかけていたんですね(笑)。では、夢職人に入ったきっかけを教えてください。
一言でいえば、「仕事じゃない何か」をやってみたかったんです。入社当時は、希望の仕事に就けたことが嬉しくて、ただがむしゃらに働いてました。しかし、何年か経って仕事に慣れてきて、目標を見失ったというか。何か新しいことをやってみたくなったんです。
―好きな仕事に就いても、そんな気持ちになることがあるのですね。
いくら好きな仕事といっても、仕事のやり方や人間関係で行き詰まることは、結構ありますよ。なので、仕事以外の人や考えに触れて、視野を広げてみたいなと。そこでなんとなくボランティアだなと(笑)。昔よく親戚の子どもと遊んでいて、子どもが好きだったので、「ボランティア 子ども」と検索したのが夢職人キャリアの始まりでした。
―なるほど。「やりたいこと」を仕事にしているものの、あえてボランティアに足を踏み入れたのは、そういうことだったんですね。
そうですね。でもスタッフ希望者の説明会に行くまでは、結構考えました。自分に務まるのかなとか、結局、飽きてしまうのではないかとか…。でも、今の状況を打開するにはとにかくやってみるしかないなと思って、応募してみました。
(バイクやカメラも好きで、休みの日にはよく出かけている)
―応募の前段階で少し不安な気持ちがあったようですが、いざ入会してみてどうでしたか?
正直に言うと、「うわ、この団体ガチだ!」と思いましたね(笑)。活動の後の反省会で、スタッフみんなが真剣にワークをやって、子どもとの関わりについて討論していて。そうした姿を目の当たりにして、正直、「自分にできるかなぁ」と思ってしまいました。
―でも、ひーくんは、入会当初から活動にたくさん出てきていましたよね。それは何か理由があったんですか?
単純に、子どもとの活動自体が面白かったんです。こんな無愛想な自分に、子どもたちはニコニコしながら寄ってきてくれて(笑)。初めての活動は、科学のデイプログラムだったのですが、植物博士みたいなポジションで植物園をうろうろしている役でした。植物クイズのヒントを出しながらいろんな班をサポートして、やりがいを感じました。
それから、入会後すぐに企画メンバーをやった経験も大きかったですね。正直、訳わからないまま「やります」とノリで言ってしまったのですが(笑)、チームで企画を作り上げる過程で、会社では経験できないことにチャレンジする楽しさを知りました。そこから組織の運営スタッフも担うようになって、さらに夢職人に深く関わるようになりましたね。
―そうだったんですね。「会社では経験できないこと」は、例えばどのようなことがありましたか?
すごく根本的な話ですが、「人との関わり」ですかね。仕事ではいつも機械と話しているので(笑)。夢職人のスタッフは、学部も、職種も、年齢も、モチベーションも、スキルもバラバラ。そうしたメンバーと一緒に企画をしたり、組織の運営をしたりする中で、全体を一歩引いて見られるようになりました。それは、子どもとの活動でも一緒ですね。「学校も学年も発達段階も異なる子たちが同じ班にいる中で、どうしたら子どもたちが互いを認め合いながら楽しく活動できるだろう?」と常に考えています。これもある意味で「人との関わり」ですね。
―「人との関わり」…深いですね。他に、「会社では経験できないこと」はありましたか?
資料を作るために正しい文章を構成したり、説明会で人前で話したりするのも、会社では経験できないことの一つでした。学生みたいな回答で申し訳ないですが(笑)、社会人になったからって、みんながみんなやらせてもらえるものでもないんですよ。仕事とは異なる場でこうした力を身に付けていくことは、今後の人生において必ず役に立つと思っています。
―なるほど。ひーくんの仕事は子ども関連ではないので、夢職人とは一見関連がないように思えますが、働く上で夢職人での経験が活かされていることはありますか?
中堅になり、後輩の指導をすることが増えてきたのですが、そこにかなり活かされているなと感じます。今までは、業務内容を「あれやれ!」「これやれ!」と言うだけでした。しかし、夢職人での多様な人との関わりで感じた、一歩引いて見る姿勢を大事にしたことで、後輩一人ひとりの得意・不得意や困っていることを把握しながら指導できるようになって。良い意味で気を遣えているなと感じています。
それから最近、初めて業務改善について内部の社員に発表するというミッションがあって!(笑)そのためにわかりやすい資料を作ったり、順序立てて説明をしたりしたのですが、夢職人でやっていることそのままだなと。僕はもともと人前に出るのが苦手なタイプなので、夢職人でやっておいて本当によかったなと思いました。
(ひーくんの等身大の関わりが子どもたちとの距離感をグッと縮めています)
―それはやっておいてよかったですね!では逆に、仕事が夢職人での活動に活かされていることはありますか?
そうですね…。締切から逆算して段取りを考える力は、活かせていると思います。どんな仕事でも締切があると思いますが、自分の場合は、電車を安全に定刻で運行するために、短時間でメンテナンスの段取りを考えて動かなければならない仕事です。そうした仕事の経験は、企画を作り上げる時や、中長期的な組織運営を考える時などにもかなり活きている気がします。
―仕事とボランティアの相互作用ですね。ちまたで話題の「パラレルキャリア」とも言えるような。
確かに、本業があるうえで他に自分のやりたいことをやってスキルアップができているという点では、パラレルキャリアと呼べると思いますね。僕には、そんなオシャレな言葉は似合わないですが(笑)。
―そんなことないですよ!(笑)では、パラレルキャリアを体現している先輩として、ぜひ、メッセージをお願いします。
はい。働いていてつまずいた時に、仕事とはまた異なる環境があるのは、本当にありがたいことです。夢職人で経験したことがきっかけで、仕事の目標が見えてくることもありました。僕は、仕事という枠から一歩踏み出して「やってみようかな」という気持ちを大事に行動したことが本当によかったです。ぜひ、仕事以外のことにチャレンジしてみてください。
―ひーくんらしいメッセージですね。素敵なインタビューをありがとうございました!
(インタビュアー:こだちゃん)