スタッフ

インタビュー後編:今度はキミが、子どもたちのためにいつか同じことをしてあげなさい。

2009/05/24

特定非営利活動法人 夢職人 代表理事 岩切準さん

1982年、東京都三鷹市生まれ江東区育ち。 高校卒業後に就職をするが、自分の人生を模索するなかで心理学を学ぶため大学を経て大学院に進学し社会心理学を学ぶ。平成16年、大学在学中に任意団体夢職人を設立。平成20年にNPO法人化。東京都江東区を中心に異年齢集団での野外教育活動、スポーツ・レクリエーション活動、文化・芸術活動などの多彩な社会教育活動を行う。現在、国籍や世代を越えた幅広いバックグラウンドを持つメンバーが地域における教育活動の実践に取り組んでいる。

#04 小休止

インタビューをはじめてから1時間が過ぎようとしている。ここまでは、夢職人という団体がNPO化するまでの道のり。特に岩切準という一人の青年の学生時代の話を中心にインタビューをしてきた。しかし、その途中で何度も気になっていることがある。おそらくNPOに就職する、もしくはNPOを立ちあげるという類の話を聞くときには、誰もが思い浮かべる重要な質問だ。つまり「生活はどうするのか。」ということだ。たとえば、アメリカでは事業規模も大きなNPOも多く、MBA(経営学修士)をとった優秀な学生がNPOに就職するという光景はなんら不思議ではない時代になってきたといわれる。一方で、日本の状況はそこまでには遠く及んでいない。「百年に一度の不景気」とよばれる昨今、NPO法人の活動を展開する岩切にとって生活の不安感はまったくないのだろうか。

#05 社会起業家という人々

「使命感のほうが強かったんです。自分がこの分野に取り組まなくてはいけないという・・・。目の前に課題があるからその山を登りはじめました。たぶん、食べていくことを先に考えていたら夢職人はやっていなかったと思います。」

岩切の心はあるコトバによって支えられている。一緒に遊び、育ててくれた地域の「おやじたち」の言葉だ。岩切が子どものころ、感謝の言葉を述べようとすると、「おやじたち」はいつもこう言った。

「今度はキミが子どもたちのために、いつか同じことをしてあげなさい。」

この言葉があったからこそ、自分の使命感と生活を両立させるためにはどうすればいいのか、ということを常に考えるようになったのだ。とはいえ、世の中はそれほど甘くない。現在の社会では、どうしても「社会にイイコト=食べることができない仕事」になってしまう。学生時代にアルバイト代をほとんど活動に費やしていたから、経済的にもアルバイトをしながら活動を続ける難しさは痛感していた。また多くのボランティアをやってきたからこそ、ボランティアでやれることの限界も痛いほどにわかっていた。

「いったい、どうしたら収入がついてくるのだろう?」

この問いこそが、岩切を「社会起業」という分野に結びつけることになる。社会起業とは、社会的課題を事業で解決していくことである。アメリカや日本の社会起業の事例をみていくなかで、これならば生活と両立しながら、子どもの社会教育を行うことができるのではないかという希望を持つことができた。

ただ、問題もあった。そもそも社会教育に関するプログラムを考えるのには自信があった岩切だったが、経営はまったくわからない。「マネジメント?マーケティング?」こんなありさまだった。そこで岩切は、物事を継続していく力や発展させていく力は企業が持っているわけであり、それらを学ぶことは子どもたちのためになるという想いから、とあるNPOが行っている、社会事業を専門家とともにブラッシュアップしていく活動に参画したのだった。その経験が夢職人に大きな変化をもたらした。

自分の考えを研ぎ澄ましていく作業は、事務所の机の上ではできない。ビジネスの専門家たちから「キミはどうしたいんだ?」と問いかけられることで、次第に、自分が目指していきたいところはどこか?やるべきことはいったい何か?ということが明確になっていった。それはスキル習得の場ではなく、NPOとして活動するために、もっとも大切なミッションやビジョンの明確化。さらには、それを達成するために何をすべきか?というアクションプランを具体的に考えさせられる機会となった。この経験を通じて夢職人は劇的な組織形態の変更を行い、関わるスタッフの数も急激に増えていった。収益も約2倍となり、活動展開のスピード感もよりいっそう進化したのである。

#06 旗上げ

話を団体立ち上げ当時に戻そう。もともと夢職人は任意団体からのスタートだった。それはまさしく何もないところからの始まり。子どもたちの保護者や地域からの信頼もないなかで岩切らはある行動を実行した。それは一緒に活動する仲間を募るために、アルバイト代をだしあって、あらゆる友人に手紙を書きまくったのだ。そうやって仲間が一人二人と集まってきた。最初の2年間はアルバイト代をつぎ込んで活動を続ける毎日であり、生活との両立の厳しさを感じていたのだった。だからこそ、生活と活動を両立させ、さらに活動を発展させていけるような仕組みをいかに作り上げるか?という問題意識が生まれていった。ただ、教育分野は顧客に負担を強いるだけのビジネスモデルは通用しない。なぜなら、本当に教育を受けてもらいたい人達が、みんなお金もちとは限らないからだ。現在、夢職人では、会費・寄付・助成・事業などの合算で事業をまわしている。会費や寄付・助成など多くの方からの協力を得ながら事業をまわしているからこそ、絶対的なこだわりを持っているのがプログラムの質である。

「子どもに変化がおきない教育プログラムでは意味がないんです。」と岩切はいう。

夢職人ではすべてのプログラムにおいて、効果測定のための項目を設定。数値化した後に、多面的にプログラムの評価を行っている。

「子どもに対して変化を起こしていく。社会に対して変化を起こしていく。これができなければ、自分たちが楽しむだけのサークルになってしまう。それでは、絶対にだめなんです。子どもたちがよりよく成長していくためにどうしたらいいのか?そういう成果を考えぬいて、プログラムを実施していくことが大切だと思います」

活動の効果や成果を重要視する点からはボランティアに対する岩切自身の考え方もにじみでている。

「ボランティアというのは、かけがえのない時間を金銭的な対価なしにあてています。だからこそ、自分が一生懸命やったことを目にみえる状態にすることがとても重要なんです。つまり、ボランティアだからこそ、成果がみえなければならないと思っています。」

夢職人には、社会人のボランティアが多数かかわっている。しかしながら、一般的に言われるようなボランティアの意識でやっているスタッフはいないのだという。国籍や年齢の違い、高校生から50歳代まで、実に多様なバックグラウンドを持った無給スタッフが、子どもたちを変えていくためのパートナーとして本気で活動にかかわっている。

このような活動が評価され、様々な組織から協働の話が舞い込むことも少なくない。たとえば、子どもたちが地域のお祭りで駄菓子屋を2日間経営してみる。事業計画書を書いてみて、民間の企業に勤める社会人に相談しながら、大人と一緒になってプロジェクトを組んで学びを得る。様々な人と協働しながら、課題解決をすることで収益をあげる。これはどんな仕事でも共通することであり、体験することを通じて、子どもたちの成長につながるのである。

#07 将来への道

明確化されたミッション、ビジョンによって大きな成長を遂げてきたNPO法人 夢職人。今後はどうなっていくのだろうか。夢職人の活動を、まずは江東区内全域に広げていくことがビジョンの一つだと岩切は語る。また、同時にほかの地域への水平展開も視野にいれている。そこには、質の高い社会教育プログラムをつくり続け、多くの子どもたちの成長に寄与したいという強い意志が感じられる。そのためにも、通常は競合と位置づけされる団体に対しても、同じ問題意識をもっているならば手をとりあいたいと考えている。なぜなら、問題が早く解決されることこそが、目指す最大のゴールだからだ。
  
「いま、私たちが教育をしている子どもたちが、いつしか次は教育をする側になっていきます。良き教育が循環していくことでそのコミュニティの良き社会や文化が創り出されていきます。子たちが大人になったときに、社会の中で活躍をしていくことのできる力を育めるコミュニティは、必ず豊かになっていきます。私たちは、地域社会にそういう教育の循環を起こしていきたいと思います。」

#08 エピローグ

取材中に何度も感じたことがある。それは「行動をおこすこと」の大切さだ。いつからか世の中には情報があふれ、必要なものはそのほとんどをインターネットで簡単に手にいれられるようになった。同時に、「常識」という一種の固定概念が人の心を覆いつくすスピードも早くなり、全員が同じ方向をむかないと間違っているような気風が強くなっている気がしてならない。

岩切は取材中何度かこの言葉を口にした。

「まず、やることが大事なんです。」

知識やスキルは方法論にすぎず、目の前で問題を目の当たりにしてみる。そうやって行動をしてから必要なことを学んでいくことが大事なのだと彼は語る。大人の学び方とは、まずアウトプットをすること。インプットには際限がない。アウトプットをしてから、インプットをする方が足らない部分が見えてくるし、成長感がある。それはすなわち、「必要なことは何か」ということを知るためには、まずは行動を起こしてみることが必要不可欠なことだということである。

最後に岩切はゆっくりと語りかける。

「世の中でおかしいな、変だなって思うことは誰でもあると思います。でも、同時に、変わらないだろうっていう思いが心のどこかにあるのではないでしょうか。」

この社会を構成しているのは自分自身だという事実。この当たり前の事実を大切にできるかどうか。彼は信じている。「社会は自分自身で変えることができるものだ。」と。誰でもアクションをとることができるのだ。もちろん、「それは無理だ。」という人達も少なくない。そういった人々は、変えられない理由なら10も20も考えてくる。でも、解決策の1つも考えてくることはしない。変えたいものがある。だから、変えるための方法を考える。社会を変えられると本気で信じる人こそが本当に社会を変えることができる。そして、まずは行動をおこすことが何よりも重要なのだ。岩切の瞳は静かに語りかけていた。

地域社会における教育の循環。江東区で始まった一人の若者の想いと挑戦は、江東区で育ちゆく次世代の子どもたちの心に、いま確かにひろがりはじめている。

「今度はキミが、子どもたちのためにいつか同じことをしてあげなさい。」

いつの日か岩切を優しく包んだこのコトバは、彼の夢とともに確実に次の世代に紡がれている。

※本記事は、パラレルキャリア支援サイト「もんじゅ」より許可を得て転載しています。

前編記事(ずいぶん回り道をしてきた。でもその回り道をしたからこそ気づくことがある。)を読む

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保護者の声

親としては子どもが自分の身の回りのことをちゃんとできるか心配しましたが、特に問題もなく本人が楽しく参加できたようなので本当によかったです。
親が離れると不安を感じるタイプだったので、それをクリアさせたいと思い参加しました。最初はかなり緊張した様子でしたが、何回か参加するうちに知っている顔も増え、慣れたようです。
キャンプから帰ってくると、スタッフからキャンプ中の子どもの様子を報告してもらえるのもとても良いと思います。安心して預けています。
キャンプの前に面談があるので、子どものアレルギーのことなどを事前に伝えておくことができたのもよかった。継続して参加していると、昨年できなかったことが今年できるようになったなど成長を感じられます。
スタッフの方から連絡帳で、班長の役目をきちんと務めたことを教えてもらえたのはよかったです。将来大きくなって、今度はスタッフとして関われるようになったら素敵だなと思います。
何度も参加したりして人と人とのつながりができるのが魅力的。何でも不安になりがちな子だったが、一度参加して以来、積極的に次の参加もしたがり、一皮むけた感じがしました。

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